月の民

小説

想起によって自壊される腕章を眺めていた。了解できない思想は僕にとってないものと同じであり、確証のない躊躇いがいつもいつでも邪魔をするのだ。翻って考えることもできないままに恐ろしげな感覚だけを僕に残してゆく。耳が縮れる、そのまま裏返って花束…

貝殻の国

七色に積み重なった貝殻の国、かさかさと乾いた足音で登った丘の上に広がる黄味がかった青空、巻雲と、広がる大地も淡い七色に、ここは遥か昔の海、窪んだしじま、残された過去、抜けて行く底、透球の焦点。

無関心

僕は木に登っていた。冬の空と山際だった。空気は灰色をして、汽笛から透明な煤が吹いて、遠く遠く行き渡ったようだった。白茶けた枯れ草に覆われた畝は、次第に夕暮れの中に波打って、ひとつ、ふたつ、飛び石のように散らされてある瓦屋根も沈んで見えた。 …

アイン①

アインという、月の民の一員がいます。彼は月を眺めていました。群れから一人離れた丘の木の上、とりどりに彩られた布張りの天幕と、薄紫色の空へと登ってゆく微かな炊煙とがいくつも赤土色の地面を埋めた辺りをぼんやりと見遣りながらも、その目はおもむろ…