覚えていない

三日前、白龍の夢を見た。公園のうち錆びた鉄柵に囲まれて、しどけなく小砂利と土草に伸び、さながら小さな動物園に展示されて生きているような、少し過剰に人慣れした印象の龍が、その首を這い伸ばして僕の方に近づいて匂いを嗅ぐようだ。白龍だ、と日常的に僕は思った。しかし僕以外の人が龍に向かってライフルを構える様子のおどけでバーンと口にすると、龍は激昂し、その身を柵に叩きつけながら吠えていた。ああ龍なんだ、と畏れたのを覚えている。

 

話はその龍の目である。少し土埃で汚れた、牧場の羊のような白い立髪のある顔の中、丸い目をしていたのだがその色が思い出せない。ヘマタイトよりもオニキスに近い、明度の低い黒い目だったと思うのだが、それは印象でしかない。むしろ今、例えた事でその色から遠ざかった気すらする。瑞祥だ、と密かに喜んでいたが、ふと思い起こすと自分の目が呆けていたことに気付く。

 

そういう訳で今日は起きてから家族の顔を観察した。夢見が悪かったから寝具の中で先日の良い夢を思い出そうとしたのだ。思い起こそうとする良さも気分の悪さに押されていたのだが。

 

気が付いたら普段の景色が流れてゆく。

 

今朝、駅でうずくまっていた人がいたので、すみません、大丈夫ですか、と声をかけた。弾かれたように顔を上げ、笑顔を作ったその人は、大丈夫です、頭が痛かっただけなので、と少し早口で答えた。

 

僕は仕事に行く。