過去分

もういちどのひかり

 


カーテンを引いて 毛布をかけて

クランベリィをつまんでは

もういちどひかりをみよう

もういちどひかりをみよう

 


遠くなった力まで

ベスパに乗って

ギターを弾けるようになろう

 


もう喜ばせない

もうつくらない

僕は僕のためにはたらく

 


シナモンロールをほおばって

こころが喜ぶことをして

もういちどそらをみよう

 


散らしたナッツのブラウニも

アイスのとろけたチョコシェイクも

このためだけに飲み込んだんだ

 


灯りを散らした街の夜も

拝んで食べた日々の食事も

好いて嫌った毎夜のゲームも

 


起きては畳んだ布団に毛布

スパナ巻尺カメラドライバ

象られたのは離れるために

嵌め込まれたのは融けきるために

 


猶予の時を持ち越すために

漏斗の流れに引かれぬために

 


薄紙の橋に爪先で降り立ち

真円を生んで途方に至る

 


壁の向こうに命があるなら

幕を下ろして月夜に触る

 


空の陶器に揺らぎを満たして

星に透かして水底に臨む

 


見上げた暗さは魚の光

座った白砂は鯨の腐肉

今も過ぎ行く子蟹の群れが

摘んで食べては動いた目の跡