2024-01-01から1年間の記事一覧

軌跡

走り続けた一本の線が、衛星軌道を経てまた元に帰るように。時間はスプレー状に拡がって渦巻き、微視の果てに円に至る。そういう風に捉えられた世界の、救い難い正しさを額に入れて飾って、私たちは触れ合った。部屋は広く、どこかそっけなく、吐息が絡む度…

白バラと風船

バラを自由にしてやりたかった。それで風船をくくりつけて星に送り出した。気難しかったのは王子の方だったのだから、バラにも順番が巡って来たのだ。残された星の事を思うと気の毒でもあり、すがすがしくもあったがともかく。バラにも愛する権利がある。 ほ…

邂逅

夜の匂いの水を追って回る一瞬が隣を追い越して背中に追い縋る 日向の影に向かって歩く一歩に重なって増える今が揺れて離れる 一度も息をしなかった深い花の底で包まれて私はまたそこに円を見出す 月 そこに月が 誰にも見えなかった海の匂いがどうして今つい…

3/31 4

穴に落ちて何も考えられなくなった。足を滑らせた、と思った時にはどこまでも落ちていて、引っかかりもなくそのままごそりと地面の感覚を失い続けている。本当はどうすべきだったのかなど知らない。知っているが、認められない。壁に爪を立てようとして指先…

3/31 3

幾度も幾度も重ねて繰り返しながら、本の端を三角に折っていく。全てのページを折り終わって、次の本を手に取る。表紙の向こうに何があるのかは知らない。とにかく折っていくのだ。棚から取った本もあれば、製本途中の本もあり、ふやけた本もあれば、キャラ…

3/31 2

何よりも遠い場所にいる、と思う時は、誰でも来られそうな場所にいることが多くて、本当の遠さは目の前の人に感じるから、遠さは人を鈍感にする。だから本当の遠さに立った人は、誰にも印象を残すことなく、世界から消えるのだと思う。本当の別世界は地続き…

3/31

パイナップルを輪切りにして、半分ずつずらして重ねて円にしていく途中で、自分の手が気になった。果汁が滴る指を舐める。甘さを感じるが不思議で、目の前の鏡を見る。老けた顔の自分が映り枷を感じ、皿の上の果物にもう一度目線を落とす。鮮やかな黄色と、…

3/30

空を見ながら歩いていたら、急に壁にぶつかった。仕方のないことだとは思ったが、唐突なので信じがたい。なぜここに壁がなければいけないのか。関心があるわけでもないのだが、文句を言わなければ気が済まないということもある。 君はなんだってこんなところ…

『複眼の映像 私と黒澤明』を読んだ。

一室

灰の上にたむろした光の 苦しみを立たしめた香りが 今吹き上がって風に散ってゆく 窓から漏れ入る夕景は わずかに 実にわずかに 思い出に席を譲る 置きかわってゆく 日々 すれちがってゆく 夜々の 切先が頬に傷を付ける 何故僕は血を流し 何故君はそこにいな…